過活動膀胱とは
突然、我慢が難しいほどの強い尿意が現れ(尿意切迫感)、トイレの回数が増える(頻尿)、就寝時に何回もトイレに行きたくなって起きてしまう状態(夜間頻尿)を伴う疾患です。
また、強い尿意が突然起こり、トイレに間に合わずに尿漏れしてしまう「切迫性尿失禁」になる方もいらっしゃいます。
過活動膀胱は、「尿意切迫感」があるかどうかを基準に診断します。
過活動膀胱の頻度
日本国内では、40歳以上を対象とした調査ではおよそ12.4%が過活動膀胱の症状が見られ、加齢に伴い頻度が上昇が上昇しており、60歳以上では約78%に何らか下部尿路症状(頻尿、尿意切迫感、切迫性尿失禁など)を有していたとの報告もあります。。また、その中の約50%が、尿失禁(切迫性尿失禁)を伴っています。
原因
過活動膀胱の原因は、「加齢」などが原因で発症するタイプと、脳血管障害や認知症、パーキンソン病、脊髄腫瘍、多発性硬化症、頸椎症、脊柱管狭窄症、糖尿病性末梢神経障害などの神経に原因があるタイプに分かれます。
検査・診断
尿意切迫感の症状が一定以上みられた場合、過活動膀胱の診断が下されます。頻尿や切迫性尿失禁なども起こっていると、さらに過活動膀胱の疑いが強くなります。過活動膀胱の診断・重症度につきましては、「過活動膀胱症状スコア(OBASS:Overactive Bladder Symptom Score)」を使ってチェックしていきます。このスコアは、問診時に自己採点で受けていただきます。
また、必要に応じて尿検査や残尿検査、エコー検査などの検査も受けていただき、他の疾患がないと確認した後に、過活動膀胱と診断されます。
治療法
行動療法、薬物治療があります。それでも改善しない場合は膀胱壁内にボツリヌス毒素を注入する治療や仙骨付近に機械を入れて神経を刺激する治療があります。
行動療法
行動療法は副作用のリスクがないメリットだけではなく、他の治療法と併用できるメリットもあります。
生活指導
カフェインや水分の摂取量を控えていただきます。また、「余裕をもってトイレを済ませる」「外出先にトイレがあるのかを事前にチェックしておく」、などの行動を習慣にすることで、切迫性尿失禁を予防することが可能です。
高齢者の方の場合は、着脱しやすい服にしたりトイレ環境を整えたりするなどの工夫が有効です。
膀胱訓練
トイレに行く間隔を徐々に長くして、膀胱の容量を増やそうとする訓練法です。まずは排尿計画を立てて、5分などの短時間での排尿我慢から始めていきます。そして、「2~3時間の排尿間隔」を最終目標にし、徐々に排尿間隔を長くしていきます。心配であれば、まずはすぐトイレに行ける環境から始めることをおすすめします。
骨盤底筋訓練(体操)
腹筋に力を入れずに、膣や肛門を締める訓練法です。
過活動膀胱や腹圧性尿失禁の治療に有効です。当院では骨盤底筋体操に熟練した女性看護師がマンツーマンで指導いたします。
月に1回程度で2-3回指導すればやり方を習得することができます。
体操のやり方が間違っていると症状が悪化する場合がありますので、自己流で骨盤底筋体操をしている方も動かし方のチェックをしてもらうことをおすすめします。
スターフォーマー(磁気椅子) ※自費診療
弱くなった骨盤底筋を強化して頻尿や尿失禁を改善する椅子です。
30分間洋服を着たまま椅子に座るだけの簡単な治療です。治療回数は計8回(週に2回ペース)が推奨されています。
骨盤底筋だけでなく臀部の筋肉や腰部の神経刺激も行えるためヒップアップ効果や腰痛治療にもなります。
薬物療法
抗コリン薬
膀胱の過剰な収縮を抑え、尿意切迫感を改善させる効果のある薬です。副作用として、口がかわく(口渇)、便秘などがあります。なお、抗コリン薬は閉塞隅角緑内障(へいそくぐうかくりょくないしょう)の方には処方できませんので眼科に問合せをして問題ない緑内障(開放隅角緑内障)であることを確認して処方することもあります
β3受容体作動薬
尿を膀胱内に貯める時、膀胱を拡げようと促す薬で、尿意切迫感の治療に有効です。口のかわきや便秘といった副作用は比較的少ないとされています。
フラボキサートや漢方薬、その他薬剤
先述した薬の服用ができない方に対して処方する薬です。
ボツリヌス毒素膀胱壁内治療
行動療法や内服治療を一定期間以上行っても改善しない難治性過活動膀胱の方や副作用により内服ができない方のための治療法です。
ボツリヌス毒素は美容領域では顔面のしわ取り、整形外科領域では斜頚、腋窩多汗症、耳鼻科眼科領域では顔面けいれんや眼瞼けいれんなどの治療に用いられています。
膀胱内ボトックス治療(ボツリヌス毒素膀胱内注入療法)は外来で日帰りで施行することができます。
膀胱鏡と呼ばれる膀胱用の内視鏡を用い膀胱の筋層内に20箇所ボツリヌス毒素を注入します。施術時間は10-20分程度です。
効果は2-3日後から現れ、効果期間は個人差がありますがだいたい4-8ヶ月程度とされており、繰り返し注射することも可能です。
副作用として、尿路感染、血尿、残尿量の増加、尿閉(尿がでなくなり自己導尿が必要となります。)があります。
2020年に保険収載された治療になります。